はじめに
「在留カードの期限が、昨日で切れていた」――。
その一瞬の顔の青ざめと激しい不安は、決して他人事ではありません。スマホのスケジュール登録漏れや、多忙による勘違いで「うっかり期限を過ぎてしまった」というご相談は、実は後を絶ちません。
ですが、パニックになって隠れることだけは絶対にやめてください。対処を誤れば「即・退去強制」ですが、正しく動けば日本への再入国の道を最小限の傷で残せる可能性があります。
今回は、うっかり在留期限を過ぎてしまった(オーバーステイ)場合に必ず知っておくべき「出国命令制度」と「上陸拒否期間」のリアルな仕組みを分かりやすく解説します。
期限切れに気づいたら、まず何をすべきか
一番やってはいけないのは、「数日くらい大丈夫だろう」「仕事が落ち着いてからにしよう」と放置すること、あるいは通常の更新と同じ感覚で予約もなく入管の更新窓口に駆け込むことです。
在留期限を1日でも過ぎた時点で、通常の「在留期間更新許可申請」は原則受け付けられなくなります。不法残留という状態になっているためです。
この段階で、選択肢は大きく2つに分かれます。
- 日本を一度出国し、手続きをやり直す(出国命令制度などを目指す)
- 日本での滞在継続を強く希望し、特別の事情を訴える(在留特別許可などを検討する)
注意が必要なのは、自ら「出国命令」による帰国を選んだ場合、日本にそのまま留まる道は事実上閉ざされるという点です。一方で、日本人と結婚しているなど特別な事情があり日本に残りたい場合は、まったく異なるアプローチが必要になります。
どちらの方向性を目指すべきかも含め、自己判断で動く前に、まずは速やかに専門家や出入国在留管理官署へ状況を正確に整理して相談する必要があります。
「出国命令制度」を利用できる5つの要件
オーバーステイ(不法残留)になってしまった外国人に対し、身柄を収容されることなく、自力で安全に帰国することを認めるのが「出国命令制度」です(入管法第24条の3)。
この制度は誰でも使えるわけではありません。対象は「不法残留者」に限られ、主として以下の5つの要件をすべて満たす必要があります。
1.自ら出頭したこと
違反調査が始まる前に、速やかに出国する意思を持って入管に出頭したこと。(※警察や入管の調査が始まった後であっても、認定通知書を受ける前までに自ら出国の意思を表明した場合は対象となり得ます)
2.不法残留以外の退去強制事由がないこと
密入国や他の犯罪等、オーバーステイ以外の違反がないこと。
3.一定の罪による拘禁刑に処せられていないこと
窃盗罪など、法令で定められた特定の罪で拘禁刑(旧・懲役や禁錮)を受けていないこと。
4.過去に退去強制や出国命令で出国したことがないこと
過去に同様の手続きで強制送還や出国命令を受けた歴がないこと。
5.速やかに出国することが確実と見込まれること
有効なパスポートを所持しており、自費で帰国用の航空券などを手配できる見込みがあること。
上陸拒否期間はどう変わるのか?
出国命令制度を利用する最大の実務上のメリットは、「次に日本へ入れるまでの期間(上陸拒否期間)」が大幅に短縮される点にあります。
- 通常の退去強制(強制送還): 原則として 5年間(過去に退去強制歴がある場合は10年、1年以上の拘禁刑等に処せられた場合は無期限)
- 出国命令制度による出国: 原則として 1年間
ただし、出国命令であっても条件によって期間が変わるケースがあります。例えば、違反調査が始まった後に出国の意思を表明した場合、その後に短期滞在(観光や商用など)で再入国しようとすると原則5年の上陸拒否期間が適用されるなど、細かな特例ルールが存在します。
「いつ、どのような経緯で出頭したか」が出国後の再入国スケジュールを大きく左右することになります。
行政書士に相談できること・依頼できる範囲
オーバーステイが発生した際、弁護士と行政書士では対応できる業務の境界線(弁護士法第72条等)が存在します。トラブルを避けるためにも、できる範囲を正しく理解しておくことが大切です。
行政書士がサポートできるのは、主として以下の範囲です。
- 現状の事実関係(経過日数やオーバーステイに至った事情)の整理とヒアリング
- 出頭前に必要な準備や手続き、必要書類に関する相談・助言
- 将来的な再入国(在留資格認定証明書交付申請など)に向けた手続きの案内や書類作成
なお、違反審査や意見聴取での代理人活動など、退去強制手続きそのものにおける法的代理権は弁護士の領域となります。行政書士は「今どのような状況にあり、自首・出頭に向けてまず何から手を付けるべきか」を安全かつ客観的に整理するためのファーストステップとしてご活用いただくのが最も適切です。
おわりに
期限切れに気づいた瞬間、恐怖で足がすくみ、誰にも言えず隠れたくなってしまう気持ちはよく分かります。しかし、時間が経てば経つほど、警察の検挙リスクが高まり、選択できる救済措置の幅も狭まっていきます。
うっかり失念であっても、放置して摘発されれば最長5年以上の再入国不可という厳しいペナルティを背負うことになりかねません。自ら出頭する意思を持ち、冷静に正しい第一歩を踏み出すことが何より重要です。
当事務所では、在留資格に不安を抱える外国人本人様やご家族、雇用企業様からの初期的な状況整理や手続きのご相談を承っております。「何から確認すればいいか分からない」という場合も、一人で悩まずまずはご相談ください。
※本記事は掲載日時点の法令・制度および公表情報に基づいて作成しています。法改正や運用変更等により内容が変更される場合があります。具体的な手続については、最新の法令・出入国在留管理庁の公表情報をご確認いただくか、当事務所等の専門家へご相談ください。
