はじめに
「給与を払っているのは自社だから、子会社や取引先で働かせても問題ないはずだ」
もしそうお考えなら、今すぐその運用を見直す必要があります。
外国人社員の就労ビザ、とりわけ「技術・人文知識・国際業務」(以下「技人国」)は、単に「どこかの企業に雇用されていれば何でもできる」というものではありません。自社以外の場所で働かせる場合、「どのような契約で」「誰の指示のもとで」「どのような業務を行うか」という実態が厳しく問われます。知らず知らずのうちに法令違反のリスクを抱え込まないよう、実務上のポイントを整理して解説します。
そもそも「技人国」はどこで・どんな仕事ができる?
「技人国」は、大学等で学んだ理工学や人文科学などの知識、または外国の文化に基盤を持つ思考・感受性を必要とする業務を行うための在留資格です。
ITエンジニア、機械設計者、通訳・翻訳、マーケティング担当者、デザイナーなどが代表例です。
企業が押さえておきたいのは、「どの会社に所属しているか」だけでなく、「実際の現場でどんな業務を行っているか」という点です。
例えば、自社で雇用した外国人エンジニアが取引先に常駐してシステム開発を行うこと自体は、直ちに問題となるわけではありません。
一方、常駐先で技人国に該当しない業務を行ったり、契約関係と実際の指揮命令関係が食い違ったりすると、在留資格上の問題につながる可能性があります。
「客先常駐」と偽装請負・在留資格のリスク
IT業界などで一般的な「客先常駐」そのものが、技人国で禁止されているわけではありません。
ただし、契約形態と実際の働き方が一致しているかには十分な注意が必要です。
自社と客先との契約が「請負」や「準委任」である場合、外国人社員への仕事の指示(指揮命令)は、原則として雇用主である自社が行います。
請負契約でありながら、実際には客先が外国人社員に直接指示を出している場合、契約書上は請負でも、実質的に労働者派遣に該当する可能性があります。
適法に客先の指揮命令下で働かせるのであれば、労働者派遣法上の適切な手続が必要です。
在留資格上の注意点
実態が派遣であったとしても、行っている業務自体が技人国の専門的・技術的な範囲内であれば、直ちに不法就労助長罪に該当するわけではありません。
一方、技人国の資格を持つ外国人に専門性のない単純労働をさせるなど、在留資格の範囲外の活動をさせた場合には、不法就労助長罪が問題となる可能性があります。
また、申請時の説明と実際の就労実態が大きく異なる場合には、申請内容との不一致や虚偽の申請と判断され、在留資格取消しや次回の更新不許可につながるリスクもあります。
つまり、労働法上の問題と在留資格上の問題は、分けて考える必要があります。
子会社への「出向」で必要となる手続
グループ企業間で外国人社員を出向させるケースも、「同じグループ会社だから大丈夫」と安易に考えることはできません。
例えば、A社で雇用した外国人エンジニアを子会社B社に出向させる場合、まず確認したいのが、出向先で実際にどのような業務を行うのかという点です。
B社で行う業務も、本人の学歴や職歴等との関連性があり、技人国の対象となる専門的な内容である必要があります。
また、出向によって雇用契約や契約機関に変更が生じる場合には、入管庁への届出が必要になることがあります。
技人国の場合、契約機関の名称・所在地の変更、契約の終了、新たな契約機関との契約締結などについて、原則として事由が発生した日から14日以内の届出が必要です。
したがって、「出向だから必ずこの届出」という単純な判断ではなく、出向によって外国人本人と会社との契約関係がどう変わるのかを確認したうえで、必要な届出を判断することが重要です。
「派遣」における運用の厳格化
外国人社員を派遣労働者として第三者企業に派遣する場合は、特に注意が必要です。
2026年2月、出入国在留管理庁は技人国の派遣形態について具体的な取扱いを公表し、2026年3月9日申請分から提出書類も変更されています。
主なポイントは次のとおりです。
・派遣先の事前確定
原則として、申請時点で派遣先が確定していなければ、在留諸申請の許可等を受けることができません。また、派遣先で行う具体的な業務も、技人国の活動に該当する必要があります。
・派遣元・派遣先双方の確認
申請時には、派遣元・派遣先それぞれに関する誓約書や、労働条件通知書、労働者派遣個別契約書などの提出が必要となります。
審査では、派遣元だけでなく派遣先に対しても、業務内容や活動状況を直接確認する場合があります。
・契約期間に応じた在留期間
派遣形態の場合、派遣契約の期間なども在留期間の決定に影響します。
つまり、外国人を派遣する場合は、「派遣会社が雇用しているから大丈夫」という考え方ではなく、派遣先、業務内容、契約期間などを含めて審査されると考えておく必要があります。
「派遣」と「請負(客先常駐)」の違い
外見上は、どちらも「外国人社員が取引先のオフィスで働いている」ように見えます。しかし、契約関係と指揮命令の仕組みは大きく異なります。
請負・業務委託(客先常駐)の場合
自社が客先からシステム開発などの業務を請け負い、自社で雇用している外国人社員を客先に常駐させるケースです。
この場合、外国人社員に対する仕事の指示は、原則として雇用主である自社が行います。
客先から外国人社員に直接指示を出すような実態になっている場合は、契約書上は請負であっても、実質的に労働者派遣に該当する可能性があります。
労働者派遣の場合
派遣会社が外国人社員を雇用したうえで、客先との労働者派遣契約に基づいて派遣するケースです。
この場合、仕事についての指揮命令は派遣先企業が行います。ただし、労働者派遣として適法に行うためには、派遣元・派遣先双方で必要な契約や手続きを整える必要があります。
また、技人国の申請では、派遣先と具体的な業務内容が重要になります。2026年3月9日申請分からは、原則として申請時点で派遣先が確定していることが求められています。
子会社への出向の場合
親会社などで雇用している外国人社員を、グループ会社や子会社で勤務させる場合です。
この場合も、「同じグループ会社だから自由に勤務先を変えられる」と考えるのは危険です。
出向先で実際に行う業務が技人国の対象となる専門的な業務であるか、出向によって契約関係に変更が生じていないか、必要な届出があるかなどを確認する必要があります。
このように、重要なのは「どこで働いているか」だけではありません。
「誰が外国人社員を雇用しているのか」
「誰とどのような契約を結んでいるのか」
「誰が仕事の指示を出しているのか」
「実際にどのような業務を行っているのか」
という4点をセットで確認することが大切です。
特に「客先常駐だから派遣」「請負契約だから問題ない」と単純に判断するのではなく、契約書と現場での実態が一致しているかを確認することが、在留資格と労働法の両面から重要になります。
注意すべき具体例と在留資格取消しのリスク
例えば、IT企業が「システムエンジニア」として外国人社員を雇用し、取引先に常駐させているケースを考えてみましょう。
申請時には「システム開発」と説明していたにもかかわらず、実際には機器の搬入・設置、単純なデータ入力、接客・配膳などの作業が中心になっている場合は注意が必要です。
技人国は、専門的な知識・技術等を必要とする業務に従事することが前提です。
実際に入管庁が公表している不許可事例でも、翻訳・通訳として申請した外国人について、派遣先では「店舗スタッフ」として接客販売を行う予定だったため、技人国に該当しないと判断されたケースがあります。
このように、申請書類だけでなく、派遣先・出向先で実際に何をしているかが重要です。
申請時に説明した仕事内容と、現場での仕事が大きく変わっていないか、企業側も定期的に確認しておくことをおすすめします。
企業が確認しておくべき「5つのポイント
外国人社員を出向・派遣・客先常駐させる場合は、事前に次の5点を確認しておきましょう。
1.実務内容の専門性・関連性
本人の学歴・経歴に照らし、技人国に該当する専門的な業務か。
2.契約関係の適正化
雇用契約、請負契約、派遣契約、出向契約などが実態に合った形で結ばれているか。
3.実際の指揮命令系統
契約形態と現場の指示系統が一致しているか。請負契約なのに客先が直接指示を出すなど、偽装請負につながる状態になっていないか。
4.派遣先・出向先の状況と届出
派遣先・出向先でどのような業務を行うのかを把握し、必要な届出があれば期限内に行っているか。
5.在留資格の申請内容との整合性
入管に提出した内容と、実際の就労場所・業務内容・契約関係に相違がないか。
この5点を確認しておくだけでも、後から問題が発生するリスクを大きく減らすことができます。
お困りの際はご相談ください
外国人社員の出向、派遣、客先常駐は、適切な契約と手続きを踏んでいれば可能な働き方です。
しかし、日本人社員と同じ感覚で配置転換を行うと、入管法や労働法上の問題につながることがあります。
特に、
「今の契約形態でビザの更新ができるだろうか」
「子会社への出向にあたり、どのような届出が必要なのか」
「客先常駐だが、請負と派遣のどちらに該当するのか分からない」
といったケースでは、契約書だけでなく、実際の業務内容や指揮命令関係まで確認することが重要です。
外国人社員の出向・派遣・客先常駐についてご不安がある企業様は、ぜひ当事務所にお気軽にご相談ください。
貴社の契約形態や業務実態を確認し、在留資格との整合性を踏まえて、適切な手続きや運用をサポートいたします。
※本記事は掲載日時点の法令・制度および公表情報に基づいて作成しています。法改正や運用変更等により内容が変更される場合があります。具体的な手続については、最新の法令・出入国在留管理庁の公表情報をご確認いただくか、当事務所等の専門家へご相談ください。
