はじめに
「高度専門職のビザを持っていて、在留期間もまだ数年残っているから、転職してもそのまま働けるだろう」
もしそう考えているなら、非常に危険です。
高度専門職1号の外国人が転職する場合、一般的な「技術・人文知識・国際業務(技人国)」などの就労ビザとは異なり、手続きの仕組みが根本的に異なります。最悪の場合、本人も採用企業も知らず知らずのうちに不法就労状態に陥ってしまうリスクすらあります。
今回は、行政書士の視点から、高度専門職1号の方が転職する際に必ず押さえておくべきポイントと注意点を分かりやすく解説します。
1. なぜ高度専門職1号は転職で「変更申請」が必要なのか?
高度専門職1号の最大のポイントは、「特定の会社(所属機関)で働くこと」を前提に許可が出ているという点です。
パスポートに貼られている「指定書」を開いてみてください。そこには、現在働いている会社名が明確に記載されています。
転職によって勤務先が変わるということは、この指定書に書かれた機関を変更することを意味します。そのため、在留期間が何年残っていようと、原則として在留資格変更許可申請を行い、新たな指定書の発行を受けなければ、転職先で働くことはできません。
※なお、「高度専門職2号」の方は所属機関が限定されていないため、転職時の変更許可申請は不要ですが、後述する届出手続きは必要となります。
2. 転職後の条件で「ポイントの再計算」が必須
高度専門職1号といえば「ポイント制(70点以上)」ですが、転職によって条件が変わるとポイントも当然変動します。
特に影響を受けやすいのが「年収」と「職務内容」です。
- 転職前の年収:900万円
- 転職後の年収:700万円
このように年収が下がれば、加算されるポイントも減ります。また、転職先での業務内容が、現在の高度専門職1号の活動区分(イ:研究、ロ:専門・技術、ハ:経営・管理)に合致しているかも再確認しなければなりません。
もし、転職後の条件で再計算した結果、ポイントが70点を下回ってしまう場合、高度専門職1号としての変更許可は下りません。
その場合は、無理に高度専門職を維持するのではなく、「技術・人文知識・国際業務」など、転職後の実態に合った一般的な就労資格への変更も含めて検討する必要があります。転職先を確定(内定承諾)する前に、必ず転職後の条件でポイントを試算しておくことが重要です。
3. 優遇措置や家族のビザ(特定活動)への影響
高度専門職には、配偶者の就労や親の帯同、家事使用人の帯同といった独自の優遇措置が認められています。
しかし、「高度専門職として転職したから、すべての優遇措置が自動的に引き継がれる」と考えるのは危険です。
たとえば、高度専門職の配偶者や親、家事使用人が取得している在留資格の多くは、正式には「特定活動(高度専門職外国人の配偶者等)」という区分です。
もし本人がポイント不足などで一般的な就労ビザ(技人国など)に変更することになった場合、配偶者や親が帯同するための法的な根拠が失われてしまいます。その結果、配偶者は「家族滞在」などへ変更する必要が生じ、フルタイム就労ができなくなるなどの影響が出ます。
また、親を帯同する場合の要件(世帯年収800万円以上、7歳未満の子の養育など)についても、転職後の年収や環境で引き続き要件を満たせるか、個別に慎重な確認が必要です。
4. 【最重要】「許可が下りる前」に新会社で働くと不法就労になる
実務上で最もトラブルになりやすいのが、転職のタイミング(就労開始日)です。
「技人国」同士の転職であれば、変更手続きを行わずに転職先で働き始めるケース(後に就労資格証明書を取得するなど)もありますが、高度専門職1号は違います。
高度専門職1号の場合、入管から変更許可を受け、新しい指定書と在留カードを受け取るまでは、転職先で1日たりとも業務を行ってはなりません。
許可が出る前に新会社で働き始めてしまうと、不法就労(資格外活動・資格不適合)とみなされるおそれがあります。入社日や業務開始日は、入管の審査期間(通常1〜2ヶ月程度)を十分に考慮して設定しなければなりません。
転職時の基本ステップ
- 転職先の条件(給与・職務内容)を確定
- 転職後の条件でポイントを再計算(70点以上あるか)
- 必要書類を準備し、入管へ「在留資格変更許可申請」を行う
- 【審査期間】(※この期間中は現在の会社で勤務するか、退職して待機)
- 許可取得・新しい指定書および在留カードの受領
- 新しい会社で勤務開始
5. 忘れがちな「所属機関に関する届出」の義務
変更許可申請とは別に、忘れてはならないのが入管法第19条の16に基づく「所属機関に関する届出」です。
前職を辞めたとき、および新しい会社に入社したときは、それぞれ14日以内に入国在留管理庁へ届出を行わなければなりません。
- 高度専門職1号イ・ロ(および2号イ・ロ):「契約機関に関する届出」(契約の終了/新たな契約の締結)
- 高度専門職1号ハ:「活動機関に関する届出」(離脱/移籍)
在留資格の変更申請をしたからといって、この届出が自動的に完了するわけではありません。期限内に届出を行わないと、将来の永住申請や更新審査に悪影響を及ぼす可能性がありますので注意してください。
採用を検討している企業様へ
高度専門職の外国人材を採用する際、「期限がまだ残っている高度専門職ビザを持っているから、すぐに働いてもらえる」と判断するのは非常に危険です。
企業側としても、内定を出す段階で、
- 応募者が「1号」か「2号」か
- 転職後の職務内容と提示年収でポイント(70点)を満たせるか
- 変更許可が出るまでの入社スケジュールの確保
をしっかりと確認・調整しておくことが、採用トラブルを防ぐ鍵となります。
まとめ
高度専門職1号の方の転職は、単なる「勤務先の変更」ではなく、ビザの再審査に近い厳格な手続きを伴います。
- 転職先で働くには原則「在留資格変更許可申請」が必要
- 転職後の条件でポイントを再計算(70点以上の維持)する必要がある
- 許可が下りて新しい指定書を受け取るまで、新会社で働いてはならない
- 配偶者や親など「特定活動」で滞在する家族への影響も確認が必要
- 退職・転職時には「所属機関に関する届出」も14日以内に行う
「転職が決まってから慌てて調べる」のではなく、内定を承諾する前の段階で、在留資格への影響やポイントの試算を済ませておくことを強くおすすめします。
高度専門職の在留資格変更は、ポイントの精密な計算や証明書類の収集、新会社での活動内容の立証など、専門的な知識と慎重な準備が求められます
当事務所では、外国人ご本人様からのポイント試算・転職相談はもちろん、高度人材の採用を検討されている企業様からのご相談まで、幅広くサポートを行っております。
「自分のポイントで転職後も許可が出るか不安」「採用予定の高度専門職人材の手続きスケジュールを相談したい」など、お困りの際はお気軽にお問い合わせください。
※本記事は掲載日時点の法令・制度および公表情報に基づいて作成しています。法改正や運用変更等により内容が変更される場合があります。具体的な手続については、最新の法令・出入国在留管理庁の公表情報をご確認いただくか、当事務所等の専門家へご相談ください。
