はじめに
「特定技能なら、どの国の外国人を採用しても手続きは同じですよね?」
企業の人事担当者様から、このようなご質問をいただくことがよくあります。
確かに「特定技能」は日本の入管法に基づく在留資格ですので、日本側の審査基準そのものは全国一律です。しかし、実際に海外から外国人材を受け入れるとなると、「相手国の国籍によって、必要な手続きや順番が大きく異なる」のが実情です。
その理由の中心にあるのが、日本と相手国政府との間で交わされる「MOC(協力覚書)」と、それに伴う各国独自の送出ルールです。
今回は、企業の採用現場で混乱しやすい「MOCの基本」と「国ごとに手続きが変わる理由」について、実務の視点から分かりやすく解説します。
そもそも「MOC」とは何か?
MOCは「Memorandum of Cooperation」の略で、日本語では「協力覚書」と呼ばれます。
特定技能制度におけるMOCは、日本政府と相手国政府が「外国人材の適正な送出しと受入れのために、お互いに協力しましょう」と取り決めた約束事です。
この取り決めが作られた背景には、過去の技能実習制度などで問題となった、悪質な仲介業者による高額な保証金・違約金の徴収や、不当な手数料の搾取、人権侵害防ぐという強い目的があります。
つまりMOCは、単に「入管に提出する書類を増やすためのルール」ではありません。外国人本人が不当な借金を背負わされることなく、安全かつ適正なルートで日本に来られるよう、二国間で作られた「人材保護の仕組み」なのです。出入国在留管理庁も、MOCを通じて悪質ブローカーを排除し、健全な受入れ環境を整える方針を明確に打ち出しています。
なぜ「国ごと」に手続きが変わるのか?
ここが、採用活動を進めるうえで最も注意したいポイントです。
MOCは二国間の協定であるため、具体的な手続きには相手国の国内法や労働・移民政策がダイレクトに反映されます。そのため、日本の入管(出入国在留管理局)へ申請を行うだけでは手続きが完了しないケースが多々あります。
例えば、国によっては以下のような独自のステップが義務付けられています。
- 相手国政府が認定した「送出機関」の利用が必須となっている
- 渡航前に相手国の労働当局や駐日大使館等で登録・承認手続きを行う必要がある
- 相手国政府が発行する「推薦者表」や「送出手続完了の証明書」を取得しなければならない
- 日本の受入企業と相手国の送出機関との間で、直接契約(労働者提供契約など)を結ぶ必要がある
同じ「特定技能1号」の採用であっても、相手国のルールを知らずに日本側の手続きだけを進めてしまうと、途中で相手国の出国許可が下りず、入国スケジュールが大幅に遅れてしまうリスクがあります。
具体例:ベトナムとフィリピンの違い
代表的な例として「ベトナム」を見てみましょう。
ベトナム国籍の方を特定技能として受け入れる場合、ベトナム政府当局(DOLAB等)による「推薦者表(特定技能外国人表)」の承認を得る手続きが必要です。
海外から新たに呼び寄せる場合は、現地認定の送出機関を通じて事前承認を得ます。一方で、すでに日本に留学や技能実習などで滞在しているベトナム人を国内採用する場合は、本人や受入企業が自ら「駐日ベトナム大使館」で承認(様式2)を受ける仕組みになっています(※すでに「特定技能」で在留中の方が転職する場合などは再取得不要です)。さらに、現地からの受入れ時には、認定送出機関と受入企業との間で「労働者提供契約」を締結しなければなりません。
また「フィリピン」の場合も同様に、フィリピン移民労働省(DMOW/旧POEA)への企業登録や雇用契約の認証といった、非常に厳格な独自手続きが存在します。
このように、「誰を採用するか」によって準備すべき書類も実務の流れもまったく変わってくるのが、特定技能の大きな特徴です。
MOCがない国からは採用できないのか?
よくあるご質問として、「MOCを締結していない国からは特定技能で採用できないのですか?」というものがあります。
結論から申し上げますと、MOCがない国からでも原則として採用自体は可能です。MOCの存在は、特定技能外国人を受け入れるための必須要件(絶対条件)ではありません。
ただし、注意点が2点あります。
- 相手国の国内法規制: MOCの有無にかかわらず、相手国の国内法で国外就労に関する独自の規制が設けられている場合は、そのルールに従う必要があります。
- 告示による例外指定: 自国民の不法滞在・強制送還への協力状況などから、入管法の告示(運用基準)において特定技能の対象外として指定されている国(イランなど)からは、受入れを行うことができません。
「MOCがないから手続きが簡単になる」とは限らない点にも注意が必要です。
採用前に人事担当者が確認すべき「4つのチェックポイント」
海外から特定技能外国人を採用する際は、内定を出す前の段階で以下の4点について整理しておくと、その後の進行がスムーズになります。
- 候補者の「国籍」はどこか
国ごとに送出ルールが異なるため、まずは対象国籍が特定技能の受入対象か、最新の国別ルールはどうなっているかを確認します。
- 「現在地」は日本か、海外か
同じ国籍でも、日本に在留中(変更手続き)か、海外からの呼び寄せ(認定手続き)かでルートが変わります。
- 「送出機関」の経由が必須か
ダイレクト採用(直接雇用)が認められている国か、指定送出機関を通さなければならない国かを確認します。
- 「相手国側の手続き」は誰が担うのか
日本側の入管申請だけでなく、相手国側の申請を企業・人材紹介会社・送出機関・本人の誰が担当するのか、役割分担を明確にしておきます。
MOCは「自社と外国人材を守るための仕組み」
MOCや各国の独自ルールと聞くと、「手続きが複雑で面倒だ」と感じてしまうかもしれません。
しかし、この仕組みの根底にあるのは「外国人本人が安心して働ける環境を守り、企業もトラブルのない適正なルートで人材を確保できるようにする」という思想です。不透明なブローカーを排除することは、結果として企業が将来的なコンプライアンス違反やトラブルに巻き込まれるリスクを防ぐことにもつながります。
特定技能制度では、外国人本人に対するサポートだけでなく、受入企業側の適正な管理・運用も厳しく求められています。だからこそ、採用計画の初期段階で「この国の場合は、どんな手順が必要になるのか」を正確に把握しておくことが極めて重要です。
おわりに(当事務所へのご相談案内)
特定技能の採用手続きが国ごとに異なるのは、日本の入管法だけでなく、相手国の送出ルールや二国間MOCによる取り組みが深く関わっているためです。国ごとの運用ルールや必要書類は変更されることも多いため、確実な採用を進めるためには事前の正確な状況把握とスケジュール管理が欠かせません。
当事務所では、特定技能をはじめとする国際業務・在留資格手続きを専門に扱っており、各国ごとの送出ルート確認から入管への申請サポートまで、企業のスムーズな外国人雇用を総合的にバックアップしております。
「この国の人材を採用したいが、手続きの具体的な流れを知りたい」
「相手国側の手続きと入管申請を効率よく進めたい」
など、外国人雇用に関する疑問やご不安がございましたら、内定を出す前の段階でもお気軽にご相談ください。企業の皆様と外国人材の双方にとって安心・適正な雇用環境の構築に向けて、当事務所が全力でサポートいたします。
※本記事は掲載日時点の法令・制度および公表情報に基づいて作成しています。法改正や運用変更等により内容が変更される場合があります。具体的な手続については、最新の法令・出入国在留管理庁の公表情報をご確認いただくか、当事務所等の専門家へご相談ください。
