はじめに
日本で働く技能実習生や特定技能外国人が帰国する際、「納めた年金保険料が戻ってくる」のが脱退一時金制度です。
しかし、会社が自動的に手続きしてくれるわけではなく、本人が期限内に自ら請求しなければ1円も戻りません。
さらに、厚生年金の場合は約20%の税金が差し引かれるため、帰国前の「納税管理人」の手配など事前の準備が受取額を大きく左右します。
外国人社員が損をせず無事に帰国できるよう、企業や支援機関が知っておくべき実務ポイントと注意点を分かりやすく解説します。
1.脱退一時金を受け取るための条件
脱退一時金は、日本国籍を持たない方が日本の公的年金制度から脱退して帰国した場合などに、納めた保険料に応じて支給される給付金です。
主な要件は次のとおりです。
- 日本国籍を有していないこと
- 公的年金(厚生年金保険や国民年金)の加入期間が6か月以上あること
- 老齢年金の受給資格期間(原則10年)を満たしていないこと
- 障害年金などの受給権を得たことがないこと
- 日本国内に住所を有していないこと
年金の被保険者資格を喪失した日(転出日の翌日など)から2年以内であること
技能実習生や特定技能外国人の多くは勤務先で厚生年金保険に加入していますが、加入期間が6か月以上あっても、受給資格期間10年を超えている場合や国内に住所が残っている場合は請求できません。
2.請求期限は「資格喪失日」から2年以内
請求期限は、原則として年金の被保険者資格を喪失した日(=日本国内に住所を有しなくなった日の翌日)から2年以内です。
実務上、帰国にあたって市区町村役場へ住民票の転出届を提出した場合、その「転出予定日の翌日」が資格喪失日(=起算日)となります。
たとえば、2026年11月30日を転出予定日として届出し、同日に出国した場合、資格喪失日は12月1日となり、そこから2年後の2028年12月1日までに請求書が日本年金機構に到達している必要があります。
なお、転出届を出さずに再入国許可などで出国した場合は、日本国内に住所が残った扱いとなり、そのままでは請求が認められないケースがあります。確実に資格喪失の手続きが行われているか、帰国前の確認が必要です。
3.請求手続きと必要書類
請求は原則として日本を出国した後に行います。厚生年金・国民年金の加入者は日本年金機構が提出先となります。
主な必要書類:
- 脱退一時金請求書(日本年金機構のウェブサイトから多言語版が入手可能)
- パスポートの写し(氏名、生年月日、国籍、署名、在留資格、出国スタンプ等が確認できるページ)
- 日本国内に住所を有しないことを確認できる書類(出国前に転出届を提出している場合は原則不要)
- 受取先金融機関の口座情報を確認できる書類(本人名義の口座)
- 基礎年金番号通知書または年金手帳
海外口座への振り込みにも対応していますが、金融機関によっては取り扱いができない場合もあるため、事前に口座情報の表記(SWIFTコードやBank Code等)を揃えておくことが大切です。
4.厚生年金の「20.42%源泉徴収」と納税管理人による還付
会社員として厚生年金に加入していた場合、脱退一時金の支給額から20.42%の所得税が源泉徴収(天引き)されます(※国民年金のみの場合は源泉徴収されません)。
この天引きされた税金は、適切な手続きを行えば「退職所得の選択課税」として確定申告を行うことで、ほぼ全額の還付を受けることが可能です。
ただし、本人は出国後に日本国内の税務署へ確定申告ができないため、帰国前に日本国内に住む個人または法人を「納税管理人」として選任し、税務署へ届出を出しておく必要があります。
還付手続きの流れ:
- 帰国前に、企業や担当者を「納税管理人」と定めて税務署へ届出を提出する
- 帰国後、本人が脱退一時金を請求する
- 支給決定後、本人へ送られてくる「脱退一時金支給決定通知書」(原本)を日本の納税管理人に郵送する
- 納税管理人が管轄税務署へ確定申告を行い、源泉徴収された約20%分の税金の還付を受ける
- 還付された資金を本人の母国口座へ送金する
この手順を案内しておかないと、本人は約2割引かれた金額しか受け取れません。企業側が帰国前に納税管理人の仕組みまで含めて案内してあげることが、非常に親切で実用的な支援となります。
5.企業が帰国前に案内・アドバイスしておきたい注意点
① 年金関連資料の整理と保管
基礎年金番号通知書や年金手帳、雇用保険被保険者証などの番号がわかる書類は、本人が帰国後もすぐに確認できるよう手元に保管させましょう。
② 社会保障協定と将来の年金への影響
脱退一時金を受給すると、それ以前の日本での年金加入期間はすべてリセット(消滅)されます。将来再び日本で働く可能性がある場合や、将来日本の老齢年金を受け取る選択肢を残したい場合は注意が必要です。
また、相手国との「社会保障協定」の締結状況によって取り扱いが異なります。
フィリピンなど(年金通算規定ありの協定国): 日本での加入期間と母国での加入期間を通算して年金受給資格を得られる仕組みがあります。ただし、脱退一時金を受け取ってしまうと通算の対象外になります。
中国など(二重加入防止のみの協定国): 協定は発効していますが、年金の通算規定は含まれていません。
ベトナム・インドネシアなど(協定未発効国): 現時点では社会保障協定が発効していないため、通算制度自体がありません。
このように母国の制度や協定の内容によって影響が異なるため、「一度受け取ると過去の年金期間が消えてしまう」という基本原則を理解したうえで判断してもらう必要があります。
まとめ
脱退一時金は、日本で貢献してくれた外国人労働者にとって大切な資産還元制度です。しかし、2年の期限管理、住民票の海外転出、20.42%の源泉徴収還付(納税管理人)など、複雑な手続きが絡み合っています。
受入れ企業や支援機関が帰国前に正しい知識をもってサポートすることで、帰国トラブルを防ぎ、最後まで気持ちの良い雇用関係を締めくくることができます。
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※本記事は掲載日時点の法令・制度および公表情報に基づいて作成しています。法改正や運用変更等により内容が変更される場合があります。具体的な手続については、最新の法令・出入国在留管理庁の公表情報をご確認いただくか、当事務所等の専門家へご相談ください。
