はじめに
「経営・管理ビザで会社を経営していますが、その会社をM&Aで第三者に売却することになりました。この場合、廃業と同じ手続きになるのでしょうか?」
これは、会社を売却して経営者を退く外国人経営者の方からよくご相談いただく疑問です。
会社をたたむ「廃業」と、会社を第三者に引き継ぐ「M&A・事業譲渡」は、どちらも本人が経営から離れるという点では似ています。
しかし、会社が存続するのか、売却後に本人が日本で何をするのかによって、入管法上の手続きや在留資格の考え方は大きく異なります。
今回は、経営・管理ビザを持つ外国人経営者がM&Aや事業譲渡で会社を売却する際の注意点を解説します。
■ 「会社を売却する」と「会社を廃業する」は違う
まず押さえておきたいのは、M&Aによる会社売却と廃業は、法律上の意味が異なるという点です。
株式譲渡によるM&Aの場合、株主や代表取締役が変わっても、法人そのものが消滅するわけではありません。一方、廃業は会社を解散・清算して事業を終了させます。
ただし、在留資格「経営・管理」を持つ外国人本人から見ると、「会社が存続しているか」だけで判断することはできません。重要なのは、本人がその後も「経営・管理」に該当する活動を継続しているかどうかです。
■ 会社を売却して経営から退くとどうなる?
「経営・管理」ビザは、日本で事業の経営を行い、またはその事業の管理に従事する活動を認める在留資格です。
そのため、会社を売却して代表取締役を退任し、経営・管理業務から完全に離れるのであれば、たとえ会社自体は存続していても、その会社で「経営・管理」の活動を行っているとは言えなくなります。
「在留カードの期限があと2年残っているから、そのまま日本に住める」と考えるのは非常に危険です。正当な理由なく「経営・管理」の活動を継続して3か月以上行わないでいると、在留資格取消しの対象(入管法第22条の4)となる可能性があります。
■ 会社売却後も「14日以内の届出」が義務
もう一つ重要なのが、出入国在留管理庁への届出です。
「経営・管理」の在留資格を持つ中長期在留者が、活動機関(会社)を離脱した場合(代表取締役の退任など)は、その事由が生じた日から14日以内に届出を行わなければなりません(届出義務違反には罰則規定もあります)。
「会社が存続しているから届出は不要」と誤解して届出を怠ると、将来のビザ更新や変更申請で不利益を受けるリスクがあります。
■ 売却後も会社に「顧問」や「役員」として残る場合の注意点
M&Aの後、新体制になっても「創業者として顧問や取締役に残り、アドバイスを続ける」というケースもあります。
ただし、この場合でも単に名前だけ役員に残ったり、非常勤で低額な報酬しか受け取らなかったりする場合は、「経営・管理」の在留資格を維持できないケースがあります。経営・管理ビザとして認められるためには、実質的に経営や管理の意思決定に関与しているか、相応の報酬を得ているかなどが厳しく確認されるためです。
もし実質的な経営権から離れ、一社員や技術・業務アドバイザーとして勤務に専念する場合は、活動内容に応じて「技術・人文知識・国際業務」などその他の就労系の在留資格への変更を検討する必要が生じる可能性があります。
■ M&Aの契約前に「在留資格の出口戦略」を
M&Aでは株式譲渡契約や企業価値評価に目が行きがちですが、外国人経営者が売り手となる場合は、以下の点を契約前から整理しておくことが不可欠です。
・売却後、ご本人が代表取締役を退任するのか
・売却後も日本に住み続けるのか
・日本に残る場合、どの在留資格(就労ビザ、配偶者ビザ、永住申請など)に変更するのか
・買収側(買い手)の新経営者も「経営・管理」ビザを取得するのか(※2025年10月16日施行の改正新基準である「資本金等3,000万円以上」「常勤職員1名以上」などの要件がそのまま適用されます)
クロージング日と役員退任日、在留資格の変更申請や届出のタイミングを正しくスケジューリングすることが成功の鍵です。
■ まとめと当事務所へのご相談
経営・管理ビザを持つ外国人経営者がM&Aを行う場合、「会社が残るからビザも大丈夫」という思い込みは禁物です。
当事務所では、M&Aや事業譲渡に伴う外国人経営者のビザ変更手続き、14日以内の届出対応、買収側の新経営者における「経営・管理」ビザ取得まで、法務・ビザの両面からトータルでサポートしております。
会社の売却や事業承継をご検討中の外国人経営者様、または外国人経営の会社を買収予定の企業様は、契約を締結してしまう前に、ぜひ一度当事務所へご相談ください。個別の状況に応じた最適なスケジュールとビザ戦略をご提案いたします。
※本記事は掲載日時点の法令・制度および公表情報に基づいて作成しています。法改正や運用変更等により内容が変更される場合があります。具体的な手続については、最新の法令・出入国在留管理庁の公表情報をご確認いただくか、当事務所等の専門家へご相談ください。
