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はじめに

「せっかく育てた人材が、もっと条件の良い会社へ移ってしまったら……」
2027年4月1日からスタートする「育成就労制度」では、これまでの技能実習制度とは異なり、一定の条件のもとで本人意向による転籍が認められます。
外国人材を受け入れる企業にとって、これは単なる手続きの変更ではなく、「人材確保と定着の根本的な考え方が変わる」大きな転換点です。

育成就労は「技能実習の名前が変わるだけ」ではない

育成就労制度は、外国人材を3年間で一定の水準まで育成し、将来的に「特定技能1号」レベルの人材へステップアップさせることを目的としています。

原則として転籍が認められなかった従来の技能実習制度とは大きく異なり、育成就労では条件を満たせば本人意向での転籍が可能になります。

転籍制限期間は「1年〜2年」で分野ごとに設定

制度上の最終目標(原則)としては「1年」での転籍解禁が目指されていますが、当分の間の経過措置として、育成就労産業分野ごとに1年から2年の範囲で制限期間が設定されます。

  • 2年が設定される分野の例:介護、工業製品製造業、建設、造船舶用工業、自動車整備、飲食料品製造業、外食業、資源循環 など
  • 1年が設定される分野の例:ビルクリーニング、宿泊、鉄道、物流倉庫、農業 など

なお、転籍制限期間を「2年」と設定した分野においては、「就労開始から1年が経過した段階で、昇給等の待遇向上を図らなければならない」という受入れ企業側の代償措置(義務)も定められています。

本人意向での転籍に求められる主な要件

「1年または2年が経過したら、無条件で自由に転籍できる」というわけではありません。本人の意向による転籍には、厳格な法的ハードルが設けられています。

  1. 就労期間要件:設定された転籍制限期間(1年〜2年)を満了していること
  2. 技能水準:技能検定試験の基礎級(または相当する育成就労評価試験)に合格していること
  3. 日本語能力:分野ごとに設定される日本語基準(A1〜A2相当:N5〜N4レベル程度)を満たしていること
  4. 手続きルール:無認可の民間職業紹介事業者を利用していないこと、および転籍先が「優良な育成就労実施者」であること

このように、法律上の一定のハードルがあるため、何の要件も満たさずに突然退職できるわけではありません。

また、企業の倒産や暴言・ハラスメント、人権侵害など「やむを得ない事情がある場合の転籍」は、この本人意向転籍とは別枠であり、期間にかかわらずいつでも認められる仕組みとなっています。

企業が一番警戒すべきは「育てた後」の流出

例えば、製造業の会社が育成就労外国人を受け入れたとします。

入国後、仕事を一から教え、日本語をサポートし、1年、2年と経過するころには、現場に欠かせない戦力へと成長する。

ところが、そのタイミングで近隣企業から「今より給料を上げます」「もっと良い条件があります」と声をかけられたらどうでしょうか。

技能検定や日本語試験に合格し、しっかり育った人材ほど、転籍の選択肢を手に入れることになります。

しかし、経営者として考えるべきなのは「いかに転籍を禁止・邪魔するか」ではありません。「育てた人材がこの会社で働き続けたいと思える環境をどうつくるか」です。

前籍企業を守る「初期費用の補填仕組み」も導入予定

なお、育成に時間と費用をかけた企業が一方的に損をしないよう、転籍前の受入れ企業が負担した渡航費や初期費用等について、転籍先の企業が一定割合を補填(分担)する仕組みが省令等により導入される予定です。

育成就労から「特定技能1号」への移行は試験合格が必須に!

旧・技能実習制度では、技能実習2号を良好に修了すれば「試験免除」で特定技能1号へ移行できましたが、新制度(育成就労)ではこの試験免除制度が廃止されます。

育成就労から特定技能1号へ移行するためには、以下の両方の試験合格が必須となります。

  • 技能試験:技能検定試験3級等、または特定技能1号評価試験
  • 日本語試験:日本語能力A2相当以上(日本語能力試験N4等)

つまり、「なんとなく3年間過ごしただけ」では特定技能1号へステップアップできません。企業側が計画的に技能指導や日本語学習をサポートし、試験合格へ導くプロセスそのものが、人材のエンゲージメント(会社への愛着)を高める強固なフックとなります。

今から企業が準備しておきたいこと

2027年4月1日の施行を待ってから動き出すのでは遅すぎます。今から以下の定着設計を進めておきましょう。

  • 成長の道筋(キャリアプラン)の見える化

「1年目で基礎級合格、2年目で一人立ち、3年目で技能検定3級・N4合格を目指し特定技能へ」というロードマップを明示する。

  • 評価と待遇改定のルール化

特に転籍制限2年の分野では「1年経過時の待遇向上」が義務化されます。試験合格や日本語上達に応じた昇給基準を明確にしておく。

  • 生活面・人間関係の相談体制

仕事の悩みだけでなく、住まい、病院、行政手続きなど、安心して日本で暮らせるサポート体制を整える。転籍先の指導・監督を担う新組織「外国人育成就労機構(現・外国人技能実習機構を改組)」の基準にも配慮した適切な労務管理を行う。

「転籍されない会社」を目指すより「選ばれる会社」へ

育成就労制度のスタートによって、外国人材をめぐる企業間競争はこれまで以上に激化します。

これからは、「外国人を採用できる会社」と「外国人から選ばれる会社」はイコールではありません。

制度の変更を単なる「リスク」と捉えるのではなく、自社の労働環境や育成体制を見直し、「育成に力を入れ、長く活躍してもらえる企業」へ脱皮する絶好の機会と捉えること。

採用前から特定技能への移行・定着までを一括で設計する経営視点こそが、これからの時代に求められています。

※本記事は掲載日時点の法令・制度および公表情報に基づいて作成しています。法改正や運用変更等により内容が変更される場合があります。具体的な手続については、最新の法令・出入国在留管理庁の公表情報をご確認いただくか、当事務所等の専門家へご相談ください。

 

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